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後藤孝典が語る

虎ノ門後藤法律事務所(弁護士法人 虎ノ門国際法律事務所)代表
一般社団法人日本企業再建研究会(事業継承ADRセンター)理事長

2013.09.06

最高裁平成25年9月4日大法廷決定の矛盾(婚外子)

最高裁平成25年9月4日大法廷決定の矛盾(嫡出でない子)

「家族という共同体の中における個人の尊重」???

9月4日の最高裁決定は、「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし」と定める民法900条4号の規定は憲法14条1項に違反しているというものです。

ところが、決定の理由を読んでみますと、納得がいかない点がいくつもあります。

そのうち一番大きな点は、結論部分(10頁、下段)です。引用します。

昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化、これに伴なう国民の意識の変化、諸外国の立法の趨勢、条約の内容、関係法制の変化、当審判例における問題の指摘等を総合的に考察すると、

①「家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。」そして、②「法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴ない、上記制度の下で③父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、④その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」

この決定事案は、被相続人の嫡出子が嫡出でない子を相手として、遺産の分割の審判を申し立てた事件であり、原審である東京高裁は法定相続分を前提に遺産を分割すべしと、判断した事例です。

ところが、そもそも現行法上、遺産というものは、被相続人の個人的な財産であって、妻がいても子供がいても、家庭の外に子がいようと、いないとにかかわらず、どう処分しようが、被相続人の勝手だという大原則があります。だから遺言状で自由に処分することが認められています。

ついで、遺言状がないときは、相続人同士で相談の上、法定相続分などまったく無視して遺産を分割することが認められています(民法906条)。つまり、相続分に反する内容の遺言状を書いても違法にはなりませんし、相続分に反する遺産分割も違法にはなりません。

ですから本件の決定が④で、相続分は権利だと言っていますが、「期待分」という程度のはなしで、債権や物権のような権利ではないのです。もし権利であるとすれば、自分の相続分を害する遺産分割を拒否し、或は取り消し、自分の取分を取り戻す訴訟を起こすことができなければなりませんが、そんな訴訟は聞いたこともありません。

③で不利益を及ぼすことは許されないと大見得を切っていますが、遺産分割である以上、不利益を及ぼしてもいいのです。遺産分割の基準を定めている906条は「遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。」と定めているのです。民法の中に、遺産分割は相続分を基準としなければならない、などという規定はありません。

家業に従事している農業や、八百屋、魚屋、床屋、食堂など小規模企業や中小企業では、収益をもたらす源となっている資産である田畑、店舗や工場、設備を遺産分割では長男に集中し、勤め出でている次男や、嫁にいった妹より長男の取分を多くすることなど普通の話です。原審の東京高裁がなぜ、法定相続分で遺産分割したのか、その理由はこの決定からはわかりませんが、少なくとも法律上は、東京高裁は別の分割割合にすることができたのです。

他にも、納得がいかない点があり、②で法律婚が我が国で定着していると認定しているのですから、嫡出子の相続分が嫡出でない子の相続分より多くならなければいけないという理屈になるはずで、嫡出子と嫡出子でない子の相続分が同じでなければならないという理屈になるはずがありません。論理として筋が通っていない。①では、「家族という共同体の中における個人の尊重」などといっていますが、この決定は「家族という共同体」の外にいる子の尊重を議論しているのではなかったのですか。

最高裁の、しかも大法廷が、なぜこのように信じられないほど論理性のない、無茶な決定を出したのでしょうか。

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