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後藤孝典が語る

虎ノ門後藤法律事務所(弁護士法人 虎ノ門国際法律事務所)代表
一般社団法人日本企業再建研究会(事業継承ADRセンター)理事長

2013.11.18

婚外子問題 遺産の公益性続き

遺産が株式である場合における婚外子の遺産分配請求の法的性質を検討しておく必要性は高いのです。少し専門的にはなりますが、付け足しておきます。

 

被相続人が小規模企業、中規模企業の経営者であった場合であって、遺産がその企業の株式である場合には、婚外子の遺産に対する法定相続分を嫡出子と同等にせよと言う要求は、遺産についての私的要求でありながら遺産の持つ公益的性質に対する破壊的性質を持つことになります。つまり、遺産の公益的性質の上に成り立っていた家族の破壊です。

 

婚外子の法定相続分は嫡出子と同等にすべきであるということは、婚外子が一人の場合であっても、多くの小規模企業、中規模企業において、会社経営になんの興味ももっておらず、ただ株式の財産性にしか興味がない婚外子を会社経営に参画させなければならないという生産性低減を強要することになり、以下に説明するように、婚外子が二人以上の場合は、会社経営はほとんど不可能に陥ることを意味しています。会社の生産性、収益性は決定的な打撃を受けることになるのです。

 

株式は、その宿命として、私益性と公益性を併せ持ち合わせています。会社法上は、私益性とは配当請求権と残余財産分配請求権です。公益性とは総会議決権です。ところが、小規模企業、中規模企業においては、無配であるのが普通ですし、いまは、企業経営が継続している時点における遺産としての株式の性質を検討しているのですから、残余財産のことを考える必要がありません。とすれば、残るのは総会議決権です。このため、遺産の主要な部分が株式である場合には、婚外子の株式に対しする法定相続分の主張は、会社法的には、総会議決権行使に対する参加要求となって現れてきます。

 

株式は不思議な性質をもっており、会社法的に検討するだけでは通常は不十分で、経済的観点からも検討しなければなりません。経済的とは流通性とか換金性の問題です。ところが、問題になりやすい、小規模企業とか中規模企業における株式は、会社法上の譲渡制限がかかっていることが普通です。このため株式の交換価値を全面的に否定することは正確ではありませんが、著しく交換価値は減少しています。つまり経済的には価値が極めて低い。特に配当がない場合には、経済的価値はないといってもよい。

 

このため、婚外子の株式に対する法定相続分の主張は、通常は、総会議決権行使に対する参加要求が主体になります。議決権行使に対する参加要求とは,結局、会社経営に参加させろという要求と同じです。ところが問題は、婚外子の数が2を超えてくると、会社経営に参加させろということの意味が変質してくることです。

 

話を単純化するため、いま、故人が会社株式の全部を所有しており、その全部がいま遺産であると仮定し、妻は常に遺産総額の半分を相続するものとし、子はその全員でその余の半分を相続するものとし、嫡出子は一人のみとして、単に婚外子の数だけが増加するものと仮定します。また妻と嫡出子は常に特定の議題に同じ行動をするし、婚外子は婚外子どうしで(妻と嫡出子に反対する)同じ行動をするものと仮定します。このような仮定は、実際に婚外子が登場した場合に考えられる妻や嫡出子の行動、それに婚外子自身の予想される行動に著しく反する仮定ではありません。おおむね、このような行動を取るであろうと推定される行動ですから、その結果も、充分、実際の行動に合致すると考えられます。

 

この前提の下に、嫡出子の相続分が婚外子の相続分と2対1の関係が維持されるとすると、特別決議(3分の2以上の賛成)を要する議題であっても婚外子がひとりだけの場合は妻と嫡出子は常に勝ちますし、婚外子が2人の場合も、婚外子が3人になっても妻と嫡出子は常に勝ちます。

 

ところが、嫡出子の相続分が婚外子の相続分と1対1の関係であるとすると、特別決議(3分の2以上の賛成)を要する議題であれば婚外子がひとりだけの場合は妻と嫡出子は常に勝ちますが、婚外子が2人の場合には早くも妻と嫡出子は僅かな差ですが婚外子に勝てません。婚外子が3人になれば、もう妻と嫡出子は勝つことはできません。

 

つまり、婚外子の相続分を嫡出子と同じにするときは、婚外子が一人であるときは、妻と嫡出子に向って経営に参加させろていどの要求であったものが、婚外子が二人以上になれば、妻と嫡出子は過半数は握っていても特別決議では常に勝てなくなります。したがって会社は、例えば、譲渡制限株式の譲渡承認拒否を原因とする会社買取決議も通せなくなり、株主から任意に会社株式を買い取る決議も通せなくなり、全部取得条項つき種類株式の買取決議も通せなくなり、定款変更、合併、会社分割など会社経営上の重要な議題を提出することさえできなくなります。つまり会社経営者は半身不随に陥り、ほとんど会社経営権を失います。

 

会社の生産性、収益性は決定的な打撃を受けることになるのです。

 

株を水田に置き換えて、農業に従事する家族を考えてみるともっとわかりやすいかもしれません。

 

 

 

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